予防歯科

予防歯科とは、虫歯や歯周病といった口腔内の病気が発症する前に、その原因を特定し、取り除くことで、お口の健康を維持し、さらに向上させることを目指す歯科医療の一分野です。
従来の歯科治療が病気の「治療」に重点を置いていたのに対し、予防歯科は「未然に防ぐ」という先進的なアプローチを採用しています。
これにより、患者様の生活の質(QOL)を高めることを目的としています。
単に病気を治すだけでなく、健康な状態を長期的に保つことで、美味しい食事を心ゆくまで楽しみ、自信を持って会話を交わすといった、より豊かな生活を送るための基盤を築き上げる役割を担っています。
予防歯科が必要な理由

私たちの日常生活において、食事や会話は欠かせない行為です。
しかし、そのお口の中には常に無数の細菌が存在し、虫歯や歯周病といったリスクに晒され続けています。
特に歯周病は、日本において「国民病」と称されるほど多くの人々が罹患している現状があり、初期段階では自覚症状がほとんどないため、気づかないうちに病状が進行し、重症化してしまうケースが少なくありません。
歯周病は、歯を支える重要な骨が徐々に溶かされてしまう病気であり、最終的には大切な歯を失ってしまう主要な原因となります。
さらに、口腔内の衛生状態は全身の健康状態と密接に関連していることが近年、ますます明らかになっています。
歯周病菌が、心臓病や糖尿病、さらには妊娠中の早産といった様々な全身疾患の発症や悪化に影響を及ぼす可能性が指摘されています。
口腔内が不潔な状態で行われる歯科治療が、これらの全身の病気を引き起こす「引き金」となる可能性も示唆されています。
このため、病気になってから治療を開始するのではなく、病気が発生する前に積極的に予防に取り組むことは、お口の健康のみならず、全身の健康を守る上で極めて重要な意味を持つのです。
予防歯科で行う主なケア内容
当院では、患者様お一人お一人の口腔内の状態を詳細に把握し、それぞれに最適な、まさにオーダーメイドの予防プログラムをご提案しています。
薬を用いた歯周病治療

当院が特に力を入れているのが、薬を用いた「歯周内科治療」と呼ばれる最新の歯周病治療法です。
詳しくはこちらをご覧ください。
プロフェッショナルクリーニング(PMTC)

歯科医院で行う専門的なクリーニングは、PMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)と呼ばれます。
これは、普段の歯磨きでは完全に除去しきれない歯垢(プラーク)や歯石、さらには飲食物などによる着色汚れなどを、歯科医師や歯科衛生士が専門的な器具と技術を用いて徹底的に除去する処置です。
これにより、細菌の温床となる場所をなくし、虫歯や歯周病の発症リスクを大幅に低減させることが可能となります。
フッ素塗布

フッ素は、歯の表面にあるエナメル質に取り込まれることで、歯の再石灰化を促進し、歯質を強化する働きを持つ物質です。
このフッ素を歯に直接塗布することで、酸に溶けにくい、より丈夫な歯を作り、虫歯になりにくい口腔環境を整えます。
特に、生え始めたばかりの永久歯や、虫歯のリスクが高いと診断された方には、フッ素塗布は非常に効果的な予防策となります。
噛み合わせのチェックと調整

噛み合わせが不適切であると、特定の歯に過度な負担がかかり、それが歯の破損や歯周病の悪化につながることがあります。
定期的に噛み合わせの状態をチェックし、必要に応じて歯科医師が適切な調整を行うことで、歯にかかる負担を均等に分散させ、結果として歯の寿命を延ばすことにも寄与します。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療補助

当院では、睡眠時無呼吸症候群(SAS)でお悩みの方への治療補助も積極的に行っております。
SASは、眠ると舌やあごの筋肉がゆるんで、空気の通り道がふさがれてしまうことで呼吸が一時的に止まってしまう病気です。
最近では、私たちの生活が便利になった一方で、体が退化していることもあり、SASになる人が急増しています。
推定で300万人以上いると言われていますが、実際にはもっと多くの方が悩んでいると考えられています。
これまでのSAS治療では、あごを固定する装置が一般的でしたが、これは本来のあごの動きを妨げてしまうことがありました。
当院で導入している「ファンクショナルプレート(FP)」は、取り外し可能なマウスピース型の装置で、寝るときだけお口に装着します。
このFPは、あごの動きを無理に固定するのではなく、あごがスムーズに動くようにサポートすることで、空気の通り道を確保しやすくします。そのため、あごの機能が衰える心配がほとんどありません。
日常生活で気をつけたいポイント
予防歯科は、歯科医院での専門的なケアだけでなく、患者様ご自身がご自宅で行うセルフケアも非常に重要な要素となります。
毎日の丁寧な歯磨きの実践
毎日の食事の後、特に就寝前には、時間をかけて丁寧に歯を磨く習慣をつけましょう。
歯ブラシだけでは届きにくい歯と歯の間や、歯周ポケットの奥に潜む歯垢を効果的に除去するためには、デンタルフロスや歯間ブラシの併用が不可欠です。
これらを適切に使用することで、口腔内全体の清潔を保つことができます。
食生活の改善と見直し
虫歯の原因となる糖分の多い食品や飲料の摂取は、できるだけ控えめにすることが推奨されます。
また、食事の際にはよく噛んで食べることを意識しましょう。
よく噛むことで唾液の分泌が促進され、唾液が持つ自浄作用や抗菌作用が高まり、口腔内を健康に保つ助けとなります。
規則正しい生活習慣の確立
過度なストレスや不規則な生活は、体の免疫力を低下させる要因となり、結果として歯周病の悪化を招く可能性があります。
十分な睡眠時間を確保し、栄養バランスの取れた食生活を心がけることで、全身の健康はもちろん、口腔内の健康維持にも繋がります。
禁煙の奨励
喫煙は、歯周病のリスクを大幅に高め、その進行を加速させることが多くの研究で明らかになっています
。禁煙は、お口の健康を守るだけでなく、呼吸器系や循環器系の病気のリスクを低減するなど、全身の健康にも計り知れない良い影響をもたらします。
定期検診の重要性

どんなに毎日丁寧にセルフケアを行っていても、ご自身ではなかなか気づきにくい初期の虫歯や歯周病の兆候を見逃してしまうことは少なくありません。
定期検診では、歯科医師や歯科衛生士が専門的な知識と経験に基づき、患者様のお口の状態を細部にわたって丁寧にチェックします。
これにより、もし問題があれば、ごく初期の段階で発見し、適切な治療を開始することが可能となります。
また、定期検診の際には、プロフェッショナルクリーニング(PMTC)によって、普段の歯磨きではどうしても落としきれない頑固な汚れや歯石を徹底的に除去し、口腔内を徹底的に清潔な状態に保ちます。
定期的なプロのケアと、ご自宅で継続して行われる質の高いセルフケアの両立こそが、生涯にわたるお口の健康を維持するための最も効果的かつ確実な方法なのです。
予防歯科で得られるメリット

予防歯科に積極的に取り組むことで、患者様は以下のような多岐にわたるメリットを享受することができます。
虫歯や歯周病の予防と早期発見・早期治療
病気が発症するリスクを低減し、万が一発症しても早期に発見し治療することで、病気の進行を食い止めることができます。
歯の寿命の延長
健康な歯をより長く保つことができ、将来的に入れ歯やインプラントといった大がかりな治療が必要になるリスクを大幅に低減します。
全身の健康維持への貢献
歯周病が関連するとされる心臓病や糖尿病などの全身疾患のリスクを低減し、結果として健康寿命を延ばすことにもつながります。
長期的な医療費の削減
虫歯や歯周病が進行してから行う治療は、時間も費用もかさむ傾向にあります。
予防に努めることで、長期的に見て歯科医療費を抑えることが可能になります。
健康的で美しい口元の維持
歯の着色汚れが除去され、口腔内が清潔に保たれることで、健康的で魅力的な口元を維持することができます。
豊かな食生活の享受
歯が健康であれば、硬いものから柔らかいものまで、様々な種類の食べ物を問題なく美味しく味わうことができ、食事の楽しみが広がります。
社会生活における自信の向上
口臭や歯のトラブルに対する心配がなくなることで、人前で自信を持って会話をしたり、笑顔を見せたりすることができるようになります。
唾液検査とは

唾液検査とは、患者様の唾液を採取し、その成分や量を分析することで、虫歯や歯周病といった口腔内の病気に対する個々のリスクを科学的かつ客観的に評価する検査手法です。
唾液には、口腔内の健康状態を示す様々な情報が含まれており、それを解析することで、見えないリスクを可視化します。
唾液検査の重要性

唾液は、口腔内の健康を維持する上で非常に多岐にわたる重要な役割を担っています。
例えば、食べかすや細菌を洗い流す「自浄作用」、細菌の増殖を抑える「抗菌作用」、そして虫歯によって溶け出した歯の成分を元に戻す「再石灰化作用」などが挙げられます。
もし唾液の質や量が低下すると、これらの重要な機能が十分に発揮されなくなり、結果として虫歯や歯周病のリスクが著しく高まってしまいます。
唾液検査を行うことで、ご自身の口腔内が持つ特有の性質やリスクを客観的なデータとして把握できます。
これにより、画一的な予防策ではなく、患者様一人ひとりに合わせた、より効果的でパーソナルな予防プログラムを立案することが可能となります。
例えば、検査結果から虫歯菌の種類やその活動性、唾液が持つ酸を中和する能力(緩衝能)などが明らかになることで、どのような食生活の改善指導や、具体的なセルフケアの方法が必要であるかを明確にアドバイスすることができます。
唾液検査の方法

唾液検査は、患者様にほとんど負担をかけることなく、非常に簡単に行うことができます。
通常、少量の唾液を採取するだけで検査は完了し、その結果も数分から数十分という短時間で得られることが多いです。
検査の種類によって唾液の採取方法は異なりますが、一般的には、専用のガムを噛んで唾液を出す方法や、自然に唾液を溜めて容器に吐き出す方法などがあります。
いずれの方法も痛みや不快感はほとんどありませんので、安心して検査を受けていただけます。
ご自身の口腔内の状態を深く理解し、それに基づいた最適な予防プログラムを見つけるためにも、ぜひ一度、唾液検査をご検討ください。
当院では、患者様お一人お一人の健康に真摯に向き合い、生涯にわたるお口の健康を全力でサポートしてまいります。